Pearl Jam (パール・ジャム)
Pearl Jam (パール・ジャム)の概要
Pearl Jamの結成は90年に、カリフォルニア州サンディエゴで活動していたエディ・ヴェーダーが、Green River~Mother Love Boneで活動してきたストーン・ゴッサード、ジェフ・アメンの二人と、マイク・マクレディが製作したデモを聞いたのがきっかけ。
エディがシアトルに移住し、活動が始まった。
意外なことにエディはシアトルの人間ではない。
デモを仲介したのは元Red Hot Chili Peppersのジャック・アイアンズだった。
91年にリリースされたデビューアルバムTenの大ヒットとグランジ・ブームによりNirvanaと共に世代の代弁者として祭り上げられる。
Pearl Jam 24曲
エディとカートの似たような生い立ち、チケットマスター闘争(詳しくはロックで社会問題を考える会)などのアンチ商業主義的思想、成功による混乱などNirvanaとの共通点が目立つが、両者の違いもいくつかある。
まずは、Pearl Jamは何かと批判されたということ。
音楽性は「70年代のレトロなロックを焼き直しただけ、単なるクラシック・ロック」と非難された。
また、ブームが始まってからオルタナティヴなことをやりだしたとか、オルタナ便乗バンドなどと咎められたこともあった。
パール・ジャムやアリス・イン・チェインズみたいなバンドはオルタナティヴの波にのっかった、ただの操り人形だ。
ヘアスプレーやコック・ロック(男根主義ロック、80年代の主流だった商業的なヘヴィメタル)に何年もいたのが、突然髪を洗うのをやめてネルシャツを着始めた。
わけが分からないよな。
(カート・コバーン / CROSSBEAT1995年2月号から引用)
実際のところメンバーの中には、Pearl Jam以前は80年代メタル風のことをしていた者もいる。
だが、Pearl Jamを非難していたカート・コバーンとは最終的に和解した。
Nirvanaとの最大の違いは急激な成功による混乱や大衆からの期待などに折り合いをつけ、生き残ったことだろう。
詳しくはPearl Jamと成功や大衆の期待がアーティストに与える影響を読んで欲しい。
例えば僕が自分の気持ちを正直に歌ったらそこにストーカーが待っているという・・・
そんな状況の中で、とにかく僕は僕らのバンドは何が何でも生き残らなくてはいけないと思った。
それが最優先だったんだ。そのために、ハイプから逃れるために少し後ろに下がったんだ。
でもこうやって振り返ってみると、本当に「生き残った」んだ、ってそう実感するんだ。
(エディ・ヴェダー / rockin’on2005年5月号から引用)
もしカート・コバーンが生き残り、エディ・ヴェダーが自殺していたら、Pearl Jamはどのように評価されていたのだろう?と思ってしまう。
カート自殺後は、オルタナ代表という大衆の期待に応えるかのような活動をしてきた。
詳しくはカート死後のシアトル・バンドとオルタナ代表バンドの動向とオルタナの敗北を読んで欲しい。
大衆の重圧から解き放たれた後は肩の力が抜けた感があるが、気に食わないことにはハッキリNO!という姿勢は相変わらず。
高額な海賊盤を販売している業者対策として、各公演2枚組の格安なライヴアルバムを何十枚とリリースして話題になった。
元々、自分たちの意図は、72枚のライヴアルバムをリリースすることじゃなかったんだ。
最初のアイデアは自分たちのライヴ音源を自分たちのホームページ上で販売するってことでさ。
みんなが海賊盤に40ドルも払っているんだったら、自分たちで10ドルのCDをだそうと思ってて。
(ストーン・ゴッサード / クロスビート2003年5月号から引用)
2000年代はアルバムの内容、活動内容共に反ブッシュ政権を打ち出した政治的なものが目立った。
しかし、ブッシュ政権が終焉をむかえ、オバマ政権が誕生した後にリリースした9thアルバムBackspacerでは、ポジティブで陽気なサウンドを展開。
本当に肩の荷が下りた気分だった。
いい加減パール・ジャムが、クソ忌々しい政府のことや、崩壊に向かう世界について歌わずにアルバムを作ってもいい頃だよね(笑)。(CROSSBEAT2009年11月号から引用)
サウンドは2006年のセルフタイトルの8thアルバムから単純でアグレッシブな方向に進んでおり、円熟して行く他のベテランバンドと違い、新人バンドに戻ったかのようだと言われる。
オルタナティヴの代表だとかジェネレーションXの代弁者などという大衆の期待や、政治的なバンドという世間のイメージから解き放たれ、今後も自由に活動を続けていくのだろう。
関連リンク
Pearl Jam (パール・ジャム)のアルバム紹介
1.スタジオアルバム
Ten
91年リリースの1stアルバム。
このアルバムの大ヒットにより世代の代弁者とレッテルを貼られるようになった。
両親の離婚に苦しむ若者の心を捉えたAliveはSmells Like Teen Spiritsと並ぶ時代のアンセム。
Jeremyは、Jeremy Wade Delleという少年がクラスメートの目の前で拳銃自殺した事件に触発されてかかれた曲で、両親に相手にされない少年が最後に教室で自殺するというビデオ・クリップも話題となった。
サウンド的には、他のグランジと呼ばれたバンドと比べて80年代のアンダーグラウンドからの影響をあまり感じない。
それゆえPearl Jamは古いハードロックの焼き直しと非難されたこともあった。
しかし当時の流行のサウンドからはかけ離れていたとは思うし、リアルで重苦しい歌詞とカリスマ的なエディのヴォーカル、それにマッチしたサウンドは見事だと思う。
2009年にはこのアルバムのリマスター音源や豪華なボックスセットなどがリリースされた。
Tenの2009年のリマスター盤(2枚組)
Tenの2009年のリマスター盤(MTVアンプラグドのDVDが付いた3枚組)
Tenの2009年のリマスター盤(ボックスセット)
TenとVsのセット(2007年輸入盤)
Tenのボーナストラック付き輸入盤(1998年)
VS
93年リリースの2ndアルバム。
Ten同様、陰鬱でオーソドックスで聞きやすいアメリカン・ハード・ロックと言ってしまえばそれまでだが、完成度は高いと思し、個人的にはTenよりも好きだ。
サウンド面では前作よりヘヴィで尖った印象を受け、初期ならではの爆発的なエネルギーを感じることができる。
アップテンポなGo、ヘヴィで荒々しいAnimal、Rearviewmirrorなど良い曲がたくさん収録されている。
学習不能症の幼児に対する虐待を歌ったDaughter、銃社会に嫌悪するGlorified G、白人警官に対する怒りのW.M.A.、マスコミへの怒りのBloodなどエディの詞も興味深い。
Pearl Jam入門ならTenかVSのどちらかだろう。
Vitalogy
94年の3rd。
カート自殺後ということもあり大きな注目を集めた。
以前とは異なる作風で荒々しさが目立つ。
BettermanやCorduroyといった聞きやすい曲もあるのだが全体的にポップな要素は少ない。
その分、奥が深い作品となったが、Pearl Jamらしくないとの批判もあがった。
カートの自殺を直接扱った曲はないとしたものの、Not For YouやCorduroyといった商業主義やカリスマ視されることへの不満をぶちまけた曲もあり、Immortalityはカートを連想せざるをえない曲。
ちなみにこのアルバムは本のような特殊なジャケットだが、これにかかった費用はバンド側が負担している。
No Code
成功による混乱が続いていた96年にリリースされた4th。
Vitalogy以上に従来の音楽性からかけ離れていて、意図的に難解で売れそうにないアルバムを作ったとの印象を受ける。
実際に、バンドがラジオオンエア第一弾に選んだ曲は、ハードなHail, HailではなくWho You Areというバラードっぽい曲で、エディは意識的に売れない曲を選んだと認めている。
個人的には難解だというよりは静かな曲が主役になっているだけで、Pearl Jamらしさは感じられるし、決して駄作だとは思わない。
評論家からはバンドの新たな試みを好意的に受け止めてもらったが、従来のサウンドを期待するファンは離れて行くことになってしまった。
中古で激安なので気軽に聞いてみて欲しい。
Yield
No Codeに続いてリリースされた98年の5th。
この時期になると、成功による混乱と折り合いがついたようで、オルタナティヴを期待する大衆の視線から開放されてリラックスして制作することができたようだ。
VitalogyとNo Codeと比べると、従来のPearl Jamらしいハードなサウンドに仕上がった。
代表曲はGiven To FlyとDo The Evolution。
難解なVitalogyとNo Codeが好きになれない人にオススメしたい。
Binaural
Yieldから2年後の2000年にリリースされた。
彼等らしいハードな王道Pearl Jam路線を維持しつつも、Nothing As It SeemsやOf The Girlのように、より内向的な感情に満ちたアルバムだ。
アルバムタイトル通り「バイノーラル録音」されたアルバムで、従来とは少し違ったサウンドが楽しめる。
Yieldと同様に王道Pearl Jamサウンドが好きならばオススメだが後回しにしても良いと思う。
Binauralの日本盤(2000年)
Binauralの2枚組の日本盤(2000年)
Riot Act
2002年作。
巷での評価は低いが個人的にはPearl Jamの2000年代の最高傑作だと思う。
スローテンポで大人しい曲が印象的で、ハードな曲からは従来のような激しさはあまり感じられない。
だが苦悩や絶望といった感情を深く表現していると思う。
聞けば聞くほど懐の深さに驚かさせる。
このアルバムは9.11と反ブッシュという政治的な側面に多大な影響を受けて制作された。
サウンド的には良い意味で歳をとった感じだが、反逆的なスタイルには磨きがかかったと思う。
Pearl Jam
2006年のセルフタイトル作。
Riot Actとは打って変わって、8thアルバムにしてPearl Jam史上最もシンプルでストレートなハードロックアルバムとなった。
小難しいことはほとんどやっていない。
攻撃的でエキサイティングだし、曲もキャッチーで聞きやすいのが多い。
World Wide Suicideは過去のヒット曲に匹敵すると思う。
このアルバムのレビューの中には「若返った」とか「TenやVSの時代の戻ったかのよう」といったものもあった。
Backspacer
2009年リリース。
路線は前作と同様にストレートなハードロックが主体。
だが攻撃性や緊張感、眉間にシワを寄せて演奏しているといった雰囲気は薄れた。
代わりに非常にポップで親しみやすく、楽しそうに演奏している姿が目に浮かぶ。
それはシングルカットされたThe Fixerだけを聞けば理解できるだろう。
オルタナ代表というプレッシャーや眉間にシワを寄せていなければならないといったイメージから開放され、以前はボツにしてきたキャッチーなメロディを積極的に取り入れるようになった経緯については感動的。
しかし音楽的に普通のロックバンドになってしまったと思うし、攻撃性がないキャッチーなメロディを生ぬるいと思ってしまう。
Backspacerの初回限定日本盤(2009年)
Backspacerの日本盤(2009年)
2.コンピレーション、ベストアルバム
Lost Dogs: Rarities and B Sides
2003年にリリースされた2枚組のレアトラック集。
シングルのB面曲やファンクラブ会員限定でリリースされた曲などが収められている。
Disc1はキャッチーでのれる曲が多いので、Backspacerが気に入ったならオススメしたい。
Disc2は静かな曲が印象的。
ひょんなことから最大のヒットとなったLast Kissも収録されている。
中にはラップメタルっぽいDirty Frankなど異色な曲もある。
レアトラック集とはいうものの、全体的に質は高いので、スタジオアルバムが気に入ったなら聞いてみると良いと思う。
ベストアルバムではないので入門には向いていない。
Rearviewmirror: Greatest Hits 1991-2003
2004年にリリースされた2枚組ベストアルバム。
タイトル通り1991年から2003年の作品から選曲されている。
1stアルバムの曲は新たにリミックスされた音が収録されている。
スタジオアルバムからの選曲だけではなく、映画のサウンドトラックに収録されているレアな曲からも数曲だけ選ばれている。
収録曲はWikipediaのrearviewmirror (Greatest Hits 1991-2003)で確認して欲しい。
個人的にはベストアルバムは好きじゃないが、初心者には良いと思う。
Rearviewmirror: Greatest Hits 1991-2003の日本盤(2004年)
3.ライヴアルバム
Live on Two Legs
1998年にリリースされたPearl Jam初のライヴアルバム。
その年のライヴの音源で、一つのライヴを通して収録されているわけではなく、曲ごとに異なるライヴの音源が収録されている。
これを聞けばPearl Jamはライヴバンドであることが理解できるだろう。
曲もYieldまでのベスト選曲なのでオススメしたい。
個人的にはVSの頃のライヴアルバムを是非ともリリースしてもらいたいのだが、Live on Two Legsもじゅうぶん尖っているとは思う。
武道館ライヴ
上述したようにPearl Jamは何十枚ものライヴアルバムをリリースしているが、これは2003年3月3日の武道館でのライヴを収録したもの。
2枚組みで全32曲、非常に長丁場だが是非ともオススメしたい。
最後の”Alive”がとても感動的。
このライヴを見た人も見ていない人も楽しめる内容だ。
これ以外にもPearl Jamは数え切れないほどのライヴアルバムをリリースしているので、興味のある方はWikipediaのPearl Jam Offical Bootlegを見て欲しい。