PJ Harvey (PJ ハーヴェイ)

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PJ Harvey (PJ ハーヴェイ)のアルバム紹介

PJ Harvey (PJ ハーヴェイ)の概要

このサイトに掲載するのは基本的にアメリカのミュージシャンだが、彼女が登場したとき日本のメディアの中ではグランジという言葉とともに掲載していたし、何より彼女が他のミュージシャンに与えた影響は大きく、音楽性も活動内容も我が道を貫くというオルタナティヴを体現しているかのようなミュージシャンなので特別に掲載することにした。

(グランジ時代のお気に入りのレコードを尋ねられて)
PJハーヴェイは世界で私のお気に入りのアーティストの1人よ。
彼女のRid Of MeはニルヴァーナのNevermindよりも重要だわ。
それは単に私の意見だけどね。
Nevermindを書いた人と同じ家に住んでいたのに、Rid Of Meにはより深い影響を受けたのよ。(コートニー・ラヴ 60 SECONDS: Courtney Love

従来の価値観を打ち破った重要な女性ロッカー。
出所はアメリカのインディではなくUKのインディ。
デビューは91年で、ポーリー・ジーン・ハーヴェイを中心としたトリオ・バンドだった。

PJ Harvey 36曲(You Tube)

デビューシングルDressがメディアで大絶賛され注目を集めていった。
そのシングルのB面に収録されていたDryでは、今まで女性が表現することの無かった露骨な性描写が話題になった。

体液のない私のアソコ
私は上手に舐めているわ
真っ白になるまで
でも、あなたは私を濡れさせないまま
(Dryの歌詞)

続く2ndシングルSheela-Na-Gigも過激な歌詞だ。

淫らな女
股を拡げてみせる
お前は露出狂だ
(Sheela-Na-Gigの歌詞)

92年のデビューアルバムDryに続く、93年のスティーヴ・アルビニと製作した2ndアルバムでも性的な歌詞が話題を集めた。

性的な表現ばかりが注目され語られた感があるが、彼女の魅力は、女性は清楚、おしとやかであるべきだという従来の価値観に捕らわれずに、思っていることや言いたいことを正直に表現するということだった。
それで、90年代を代表する女性ロッカーの一人として評価された。

このような姿勢はライオット・ガールと呼ばれるバンドからも共感を得たようだが、ポーリーは「私をあのムーヴメントに巻き込むことは勘弁して欲しい。なぜそんなに男と女を分けたがるの?男も女も同じじゃない。」とバッサリ。

初期はサウンドもハードなのが多く、恋愛に関する情念的なドロドロとしたものを感じさせるが、事実上ポーリーのソロとなった(ドラマーのロブ・エリスはその後もポーリーの作品に参加しているが)93年の3rdアルバムTo Bring You My Loveにおいてその情念は完結した感がある。

かつては、「私が三人称で歌詞を書くなんて考えられない。」と語っていたのだが、三人称の歌詞も増えてゆき、男に対する情念だけでなく表現の幅が広がっていった。
また、歌詞の掲載を拒否していたのだが、5thアルバムIs This Desire?からは掲載されるようになった。

Stories from the City, Stories from the Seaは確かに成功を収めたけど、だからってああいうアルバムをもう一度作りたいとは思わないのが私なのよ。

・・・

私はこれまで一度も流行を追ったり誰かのスタイルを真似たことはないし、大衆が聞きたいと思うような音楽を迎合して作ることもなかった。
いつもアートを自分なりにひたすら真摯に追求してきて、その結果として非商業的な方向に進むことになっても、それが私の進むべき道だと思ったら躊躇はなかったわ。

そういう姿勢をみんなが評価して、リスペクトしてくれているならとても嬉しいわね。
(PJ ハーヴェイ クロスビート2004年7月号から引用)

Is This Desire?でトリップ・ポップに接近したかと思えば、Stories from the City, Stories from the Seaではポジティブなアルバムを製作したり、続くUh Huh Herでは自身によるプロデュース、White Chalkではギターを捨てピアノ主体の曲にチャレンジ。
高い評価を得た2011年作Let England Shake以降は自身の内面を表現することよりも政治や社会について歌うことに方向性が変化した。

まだまだ成長が期待できる素晴らしいミュージシャンだ。

関連リンク


PJ Harvey (PJ ハーヴェイ)のアルバム紹介

1.スタジオアルバム

Dry

92年にインディからリリースされたデビューアルバム。
裏ジャケットの、ポーリー自身の裸の写真が話題になったりもした。

若い頃の作品だけあって、曲のテンポが早くハードな曲が多い。。
へヴィなサウンドにポーリーの情念的なヴォーカル、それにチェロなどの弦楽器も絡んでくる音楽性は見事。

Dress、Sheela-Na-Gig、Victory、そして狂気の弦楽器が印象的なPlants And Ragsなどが素晴らしい
アルバムタイトルはDryだが、上で紹介したDryという曲は収録されていないので要注意。

Dryの日本盤(1992年)


Rid Of Me

93年のメジャーデビューアルバム。
日本の音楽雑誌ではグランジという言葉と共に紹介されていた記憶がある。

上述した”Dry”という曲はこのアルバムに収録されている。

1stに続いて「脚を舐めてちょうだい」だの「あなたは蛇、私の脚を這って行く」という描写が話題になった。

音楽性は、曲のテンポが遅くなり、強弱をつけたりと1stとは一味違う。
エネルギッシュに突っ走っていた1stと比べると、立ち止まってじっくりと自分を見つめているような印象を受ける。

プロデューサーにはスティーヴ・アルビニを起用。
理由は彼が録音したPixiesのアルバムが気に入っていたから。

サウンドはアルビニらしく乾いていて尖った感じだが、ヴォーカルを埋もれさせてしまった仕上がりには賛否両論。
なので歌を重視したい人にはこのアルバムのデモ音源集である4-Track Demos(裏・リッド・オブ・ミー)をオススメしたい。
ただし収録曲はオリジナル盤と一部異なる。

Rid Of Meの日本盤(2008年)
Rid Of Meの日本盤(1993年)

4-Track Demos(裏・リッド・オブ・ミー)の日本盤(1993年)


To Bring You My Love

95年の3rdアルバム。
今作からバンドは解体、ポーリーのソロとなった。
様々な賞を受賞したこのアルバムは90年代のマスターピースとされることもある。

恋愛におけるドロドロとした情念的な雰囲気はこのアルバムが最も強い。
へヴィなサウンドとエフェクトのかかったヴォーカルは恐怖すら感じる。

Long Snake Moanでは「お前を海深く沈めてやる」とか「それが私の呪い」だとかいう歌詞が強烈。
個人的に一番怖いのはへヴィな曲ではなく、ボソボソと語るように歌うWorking For The Manだ。

To Bring You My Loveの日本盤(1995年)


Dance Hall At Louse Point (John Parish & Polly Jean Harvey)

96年の4thアルバム。
To Bring You My Loveのプロデューサーで、ポーリーが18歳の頃から彼女の音楽に関わってきたジョン・パリッシュとの共同名義だ。
曲はジョン、歌詞はポーリーがそれぞれ手がけている。

City Of No Sunのように猟奇的な曲もあるが、全体的にリラックスして聞ける曲が多い。
従来のアルバムでは聞けなかったサウンドが興味深い。

ブックレットには、各曲の後に都市名が記されている。
東京はCity Of No Sun(太陽のない街)とLost Fun Zoneだ。

Dance Hall at Louse Pointの日本盤(1996年)


Is This Desire?

98年リリースの5thアルバムで、歌詞とサウンド共に転換期にあたる。

歌詞の面では売春婦のアンジェリーナや、かつて都会のレディだったが没落して孤独なキャサリンなど、第3者的な立場で語る歌詞に変化。
また今までのアルバムは、歌詞を付けることを拒否していたが今作からは解禁している。

サウンド面では、ノイジーなギター主導のロックから撤退し、ピアノやダンサンブルなビート、打ち込み音などが主役となっている。ブリストル・サウンド、トリップ・ポップ、Trickyとの共演などからの影響が指摘されている。
音楽性だとPortisheadの暗黒世界が最も近いと思うが、決して「そのまんま」ではない。

自身の情念をストレートに表現しているわけではないが、3人称といってもポーリーが実際に感じたことを物語風に歌っているのだろう。
人生のダークな部分をリアルに表現している。

ダークなビートが印象的なThe Wind、ダークで破壊的な雰囲気とPj Harveyの歌とメロディが美さがマッチしたPerfect Day Elise、妖しいドラムとベースに儚いピアノとコーラスが絡んでくるThe Garden、ピアノ主導のThe River、ハードなNo Girl No Sweetなどが代表曲か。

収録曲全ての質がとても高いので最高傑作に挙げる人も多いだろうし、是非とも聞いて欲しいアルバムだ。

Is This Desire?の日本盤(1998年)


Stories from the City, Stories from the Sea

2000年の6thアルバム。
メロディが分かりやすく、明るい雰囲気なので入門には是非ともオススメしたい。

「世界は狂ってる だから拳銃をちょうだい」と歌うBig Exitや売春婦を中心に都市の腐敗を歌ったThe Whores Hustle And The Hustlers Whoreこそ収録されているものの、Good Fortune、A Place Called Homeなどサウンドと歌詞共に過去の作品には無かったポジティブな雰囲気を感じさせる曲が多い。

This Mess We’re In、One Line、Beautiful FeelingではRadioheadのトム・ヨークがヴォーカルとして参加している。
特にトムがリードヴォーカルを取るThis Mess We’re Inは最高のデキ。

Stories from the City, Stories from the Seaの日本盤(2000年)


Uh Huh Her

2004年の7thアルバム。
メロディが良いので、これから入門するもの良い。

前作のポジティブでポップな要素をあっさりと捨て、再び内向的な路線となった。
「絶望的な愛の王国」といった曲のタイトルからも理解できるだろう。

ドラムはロブ・エリスが叩いているが、その他の楽器とプロデュースはポーリーが全て担当している。

サウンドは原点回帰的と言われることが多い。
シンプルでローファイ、荒削りな仕上がりだ。
しかし過去のアルバムとは一味違うと感じるのは、本人が言うように揺るぎない向上心によるのだと思う。

怒り狂う曲からアコギで歌い上げる曲まで表現力は、初期と比べて確実に変化している。
7作目にもかかわらずマンネリ化とは無縁で、しかも傑作を作り上げるとは、ポーリーは真のアーティストだとしか言いようがない。

この時期のツアーの様子を収録した映像作品としてPlease Leave Quietlyがある。

Uh Huh Herの日本盤(2004年)


White Chalk

2007年の8thアルバム。
はじめて聞いたときは変貌振りに驚いてしまった。

8作目でポーリーがチャレンジしたのはエレキギターを捨て去ることだった。
アコギの音は少し入っているが、サウンドの主体は今までポーリーがロクに弾いたことがなかったピアノ。
その他にはフィードルやハープ、バンジョー、ハーモニカなど古い楽器が使用されている。

サウンドだけでなく歌い方も従来のアルバムとはまったく異なるので、PJ Harveyのアルバムだと知らないで聞いたら、別人のアルバムだと思ってしまうだろう。
だが、それでいて質の高いアルバムを作り上げてしまうのがPJ Harveyだ。

このアルバムではポーリーの意向で歌詞が掲載されなくなったので内容は良くわからない。
サウンドを聞く限りでは、ダークで悲しみ溢れる雰囲気だ。

Grow Grow Grow、When Under Ether、White Chalk、The Mountainがオススメしたい曲。

White Chalkの日本盤(2008年)


A Woman A Man Walked By (PJ Harvey & John Parish)

2009年リリース。
13年振りにジョン・パリッシュとの共同名義で、13年前と同様に歌詞はポーリーが担当し、曲はジョンが製作した。

ジョンが曲を手がけていることもあって、従来のポーリーのアルバムとはまったく違った印象を受ける。

サウンドは古風な楽器が印象的。
前作にも古風な楽器を使用していたが、このアルバムはピアノ主体ではないし、古風な楽器を多用したロックといえば良いだろうか。

久しぶりにハードなギターが鳴り響くBlack Hearted Love、バンジョーを使用してLed ZeppelinのFour Sticksを聞いたときの感覚を目指したというSixteen, Fifteen, Fourteen、「ポーリーが100歳の老女のように聴こえる」というApril、混沌とした表題曲、「ポーリーが犬のように吠えている」というPig Will Notが特にオススメの曲。

A Woman a Man Walked Byの日本盤(2009年)


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