前作から2年後の2000年にリリースされた彼女の代表作の一つ。ニューヨークに9か月間滞在していたことが大きなインスピレーションとなったようで、ジャケットはニューヨークを闊歩しているものとなった。
前作同様に大胆に作風を転換したアルバムであるが、今作でチャレンジしたのはポップで爽快感あふれるシンプルなロックであった。象徴的なのが躍動的でポジティヴな気分にさせてくれるほどポップでキャッチーなBig Exit、Good Fortune、This Is Loveの3曲だ。
歌詞の面では「この世界は狂っている 銃をちょうだい」を歌うBig Exit、娼婦やドラッグを描写することで都市の腐敗を歌ったThe Whores Hustle And The Hustlers Whore、旧日本軍の神風特攻隊を彷彿とさせるKamikazeなどがあるものの、初期のようにダークで絶望的な気分にさせるものではない。
このような変化は、30年間生きてきた中で様々なことを経験して、ものの見方が若い頃とは変化してきたり、視野が広がったりしたことが大きな理由だというようなことをさまざまなインタビューで語っている(クロスビート2000年10月号、ロッキングオン2000年10月号、日本盤のライナーノーツ)。
あたし自身、もう数年前のように、すべての物事を白黒ハッキリ区別を付けたがるナイーヴさ、無知に基づいた見当はずれの対象に対する怒りみたいなものをある意味卒業したってことじゃないかしら。そういう直情型の怒りがそのままソングライティングに直結してしまう、っていうパターンはなくなってきたの。
この世界はそんな簡単に白黒区別を付けられるようなものじゃない、ってことがついに私にも解ってきたせいなんでしょうね、多分。で、そういう自分の生き方に対する姿勢の変化が、ここ数年の作品群には徐々に現れ始めてるんだと思うわ。
(PJ Harvey ロッキングオン2000年10月号)
Radioheadのトム・ヨークがリードヴォーカルをとるThis Mess We’re Inの出来は最高だし、ヴォーカルとギターが素晴らしいYou Said Something、ラスト2曲のHorses In My DreamsとWe Floatは美しくもはかない。
世間から高評価をえて、様々な賞にノミネートされ、女性ソロアーティストとしては初となるマーキュリー賞を受賞した。
ただ、キャッチーで生き生きとした雰囲気が好きになれないコアなファンもいるかもしれないし、セル・アウトと批判されてもおかしくはない。
リリースから20年以上経った2026年現在、彼女がこの作品についてどう思っているかはよくわからないが、2025年の来日公演ではHorses In My Dreamsが演奏された。

