春ごろから始まったTHEE30THと題されたプロジェクトをご存じでしょうか。ミッシェル・ガン・エレファントのデビュー30周年を記念して、「彼らの作品を永久保存版として後世に残すべく立ち上げられた」ものだそうです。サウンドの方向性はオフィシャルサイトで述べられています。
特筆すべきはこちらでしょうか。
主として意図したことはオリジナル・マスター(テープ)に可能な限り忠実な状態でのデジタル化です。そして、それと連動したオリジナル・アルバムのレコードの再発です。
ただし、ミュージックマガジン7月号に掲載されたマスタリングエンジニアのインタビューによると「今の感性も入れて」いるのでマスターテープを忠実に再現したものではないようです。
上のミュージックマガジンのインタビュー記事では「ロー(低音)」についての話が印象的でしたが、はたして実際の音質はどうでしょうか?
Cult Grass Stars

オリジナルのリリースは音圧戦争が本格化しつつあった1996年。個人的にはオリジナルCDは酷いキンキンサウンドではないと思っています。奥行きも感じられる良い音だと思っています。
「トカゲ」で聞き比べてみましたが、2025年のアナログレコードはわずかに低音重視かなあという印象です。高音の鮮明度はCDが一番、次に2000年のレコードの順です。音質は劇的に違うとは思えません。
2025年のリマスターされたハイレゾは波形だけ見ると酷いものですが実際の音質はどうでしょうか。音圧は高いですが、foobarのリプレイゲインで音の大きさを揃えてABXテスト機能で聞き比べると、キンキンサウンドではないですし、奥行き不足でもないです。低音重視という方向性が明確に理解できる音質です。
まあ、ここまで音圧を上げる必要があるのか失笑したくはなります。
Is This High Time

比較対象はbrand new stoneです。CDの方がアタック感は強くて中域を上げたようなシャーシャー・サウンドだというのがよくわかります。平面的ですし。
2000年の再発レコードはCDと同じような音質です。2025年のレコードは高音と中音が弱くなって低音がよく聞こえるという典型的な「レコードらしい」すばらしい音です。いい具合にぼやけていて最高です。
ハイレゾは購入していません。
Chicken Zombies

「ロシアン・ハスキー」と「バードメン」で聞き比べましたけど、2025年のレコードとCDはあまり違いが感じられません。CDの方がわずかに中域が強いシャーシャーサウンドかと思いますが気のせいかもしれません。
CDの音量は大きいですが、音質としては高音を強調したようなキンキンサウンドではないですし、ドラムを目立たせてアタック感を強めている感じでもないです。低音もちゃんと出ています。
まあ音の小さいレコードでアンプのボリュームのノブを回して聞いた方が良い音がする気がしますけども。
オリジナルレコードは持っていません。ハイレゾは購入していません。
GEAR BLUES

オリジナルCDは音圧競争に毒されて完全に海苔波形化され、音が割れていると思しき部分も目立ってきましたが2025年の音源はどうでしょうか。
いろんな曲で聞き比べましたが、CDが如何に音の大きさだけの貧弱な音であるかが理解できます。音は弱々しくて低音もあまり出ていません。特にキラー・ビーチではよくわかると思います。高音を強調し過ぎているからか、ギターの音割れが目立ちます。
2025年のレコードとオリジナルレコードとの比較は、2025年盤がどちらかというと鮮明でしょうか。オリジナルのほうが高音が不鮮明ですが私はこちらの方が好きです。
2025年のハイレゾは1stのハイレゾと同じような感想です。低音の強さが際立っている籠り気味の音質です。私はすばらしいと思います。
内周歪みがひどい件について
TMGEのレコードについて語るとき、避けては通れない話題があります。内周歪みが酷いということです。2025年のレコードも、それ以前のレコードも、今回聞き比べに使用したすべてのレコードにいえることです。ですから、私としてはTMGEのレコードを自信を持っておすすめすることはできません。今回の30周年記念盤は改善されていると期待していたのですが残念です。
内周歪みについてはGoogleやYou Tubeで検索すれはたくさんの情報が出てきます。英語でいうとInner groove distortionです。略すとIGDです。
こともあろうに、MICHELLE GUN ELEPHANTの曲の中でも名曲とされそうなものが内周に収録されているんです。1stだと「世界の終わり」、2ndは「リリィ」、3rdは「ゲット・アップ・ルーシー」、4thは「アッシュ」と「ダニー・ゴー」の歪みが酷いです。
これをどう考えるかですよね。レコードの宿命として受け入れるか否か。
内周歪みの原因としては、ミッシェルガンエレファントの音楽性から考えて仕方がないと思います。個人的な経験からして、轟音ギターは内周歪みが発生しやすいと思っています。例えばMy Bloody ValentineのLovelessのラスト曲のSoonも歪みます。
あとはカッティングエンジニアの腕、カートリッジやレコードプレーヤーのセッティングなど様々な要因がかかわってくるようです。「お前のセッティングが悪いからじゃないのか?」といわれれば否定はできません。完璧にセッティングできている自信はありませんし、私のDP-1300MKIIはオーバーハングの設定について曰く付きですし・・・。カートリッジをDL-103からDL-110に変えたら多少はよくなりましたが・・・。
つまりは、あなたの再生環境で私のような酷い内周歪みが発生するとは限りません。
内周に音溝を掘らないという選択肢はなかったでしょうね。元々が2枚組ですのでこれ以上枚数を増やすのは無理だったのでしょうか。ただIs This High Timeは2枚組にしてもよかったのではないでしょうか。
追記です。私はJICOのSAS針を使用することによって内周歪みが大幅に改善しました。今回ご紹介したレコードも歪みが気にならない程度まで激減しました。これでTMGEのレコードを快適に聞くことができるようになりました。
私の結論
そういうわけで、純粋に「レコードらしい」音質だけを求めるのだったらリマスターされたハイレゾをおススメします。私はCult Grass StarsとGEAR BLUESしか聞いていませんが、他もおそらく同じような、高音を抑えた低音重視の籠ったレコードのような音質だと思われます。もちろん内周歪みとは無縁です。音の大きさは「ここまで上げなくてもいいんじゃないか」とは思いますけど。
物としての価値や「レコードで聞く」ことに価値を見出している方、自身のレコードプレーヤーが内周歪みと無縁な方は2025年のレコードを購入するべきでしょう。特にIs This High TimeとGEAR BLUESはあきらかにCDとは音質が違うので、楽しめると思います。
一番よいのはレコードとハイレゾを両方購入することですが、アルバム1枚につきレコード6,000円、音楽ファイル4,000円の合計1万円かかってしまいます。全作品で両立するのはなんだかなあと。
今後リリースされる5th以降の作品について
CDでいいますと、まさに音圧戦争時代真っただ中だったことを実感させる酷い音質のCASANOVA SNAKEとRodeo Tandem Beat Specterが改善されていることを願っております。
SABRINA HEAVENはレコード会社が変わったからか、急に音圧競争から撤退したかのような音質でした。何かあったのでしょうか? CDでもよい音ですがレコードにも期待しています。内周歪みを何とかするのは難しいのでしょうか。



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