Bikini Kill (ビキニ・キル)、Le Tigre(ル・ティグラ)、The Julie Ruin(ジュリー・ルイン)

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最終更新2021年12月31日

Bikini Kill (ビキニ・キル)、Le Tigre(ル・ティグラ)、The Julie Ruin(ジュリー・ルイン)のアルバム紹介

Bikini Kill (ビキニ・キル)の概要

1990年にシアトル近郊のオリンピアでキャスリーン・ハンナ、トビ・ヴェイル、ビリー・カレン、キャシー・ウィルコックが結成。
ライオットガールというフェミニズム思想を持ったパンク・バンドが勃発させたムーヴメントを引き起こしたバンドの一つとして知られる。

詳しくはRiot Grrrl(Riot Girl ライオットガール)やこのムーブメントに詳しいP.W.A.を見ていただきたい。

女性に対する暴力やレイプ、近親相姦を歌詞に取り上げ、白人男性優位社会や女性はこうあるべきだという価値観を押し付ける社会に対する反逆的な姿勢だけでなく、同性愛者に対して寄り添うような姿勢も兼ね備えていた。

Bikini kill 19曲(You Tube)

ビキニ・キルに関しては当初、正直言って音楽的に対して面白くないと思っていたんだけど、でもそれから素晴らしいバンドになっていったと思う。
本当に強烈なバンドになったし、特にキャスリーンの歌詞は好きだったよ。

つまり男と均等の機会を与えられないことが多い社会の現状と向き合って、フェミニズムを自分の人生に取り入れるきっかけになったという。
何と言うか、若い女性たちが一種の護身術を身につけたっていうかね。
勢いのあるムーヴメントだったし、重要なものだったんだよ。
(Sonic Youth / サーストン・ムーア BUZZ Vol.41 April 2003から引用)

オリンピアというシアトル近郊エリアで活動していたこともあり、このエリアの人々とはつながりが深い。
トビ・ヴェイルはBeat HappeningやK Recordsのオーナーとして知られるカルヴィン・ジョンソンとThe Go Teamというバンドをやっていたこともあり、1989年にリリースしたシングルにはカート・コバーンが参加している。

Bikini kill自体は1998年に解散。
その後は、キャスリーンはLe Tigreというエレクトロパンクユニットで活動し、トビはKill Rock Star Recordsで働きながら音楽活動を続けた。

世間では#MeToo旋風が吹き始めた2017年に単発的に再結成、2019年にはツアーをするために本格的な再結成をはたした。

関連リンク


NirvanaのSemlls Like Teen Spiritとの関係について

ティーン・スピリット・ストロベリー(2006年)トビ・ヴェイルは同じくオリンピアに住んでいたカート・コバーンと交際していた時期がある。
トビのフェミニズム・パンク思想はカートに大きな影響を与えたようだ。

しかしカートが望んだ男女関係はトビにとっては古臭い男女差別的な関係だったらしく、結局カートはトビにふられてしまう。
Nevermindはトビのことを歌ったとされるDrain Youに代表されるように、この失恋が色濃く出たアルバムだといわれることもある。

Teen Spiritは「10代の魂」ではなく、トビが愛用していた10代向けのデオドラント。
キャスリーン(当時はデイヴ・グロールと交際していた)に「カートはティーン・スピリットの匂いがする(Kurt Smells Like Teen Spirit)。」と壁に落書きされた。
つまりトビと性的関係があることをからかわれた。
しかし当時のカートはTeen Spiritがデオドラントとは知らず、何か意味深な文章だと受け止め、それを曲名にしたらしいが、曲がリリースされた後にデオドラントの存在を知り、特定の企業の宣伝をしてしまったと後悔したとの話もある。


Le Tigre(ル・ティグラ)、The Julie Ruin(ジュリー・ルイン)の概要

Bikini Kill解散後、キャスリーンは1997年にJulie Ruin名義でのソロアルバムをリリースした後にLe Tigre(日本語表記ではル・ティグラが一般的だが1stアルバムではレ・ティグラと表記されていた)を結成した。
Le TigreはBikini Killとは違うアプローチをとっていたのが印象的だ。

サウンド面ではエレクトロサウンドを取り入れていたのが特徴だ。
またドラマー不在のバンドなのでドラムは機械の音だった。
だがエレクトロ機器の扱いについて精通していたわけではなく、チープでローファイな仕上がりとなっている。

怒りを爆発させていたBikini Killとは対照的に、音楽自体の楽しさやユーモアを追求しライヴではパフォーマーとして観客を楽しませつつも、フェミニズムや政治性、社会情勢などに関するシリアスなメッセージも発信するというコンセプトで活動した。

Le Tigre 16曲(You Tube)

ビキニ・キルで書いていた歌詞っていうのは、反対勢力としての「男性」に向けて書かれたものだったのね。
アンダたちのせいで私はこれこれができなかった、っていう。
でもレ・ティグラでは、そんなのもうどうでもよくって、直接に女性や理解のある男性たちに向けられてるの。
大切な人達に何かを突きつけるようなやりかたは、今となってみれば、ちょっと違うかなと思うのね。
なんていうか、以前よりもオーディエンスに対しての愛情が深くなってるんだと思う。
当時は、私と男性との怒りのぶつけ合いを目撃することが観客にとってポジティブなことだと思ってたんだけど、徐々に、あの行為そのものが女性蔑視だったと感じるようになってきたし。
というのも、私は男性のみと対話していて、肝心の女性たちを疎外してたわけだから。
でも今の活動では、女性同士で協力し合う…オーディエンスにも参加してもらうっていう姿勢でやってるから。
そういうアティチュードの変化はあったわね。(キャスリーン・ハンナ / ロッキングオン2001年5月号から引用)

当時注目されていたエレクトロクラッシュやダンスパンクというジャンル名とともに語られたこともあった。

2004年までに3枚のアルバムをリリースしたものの、2005年にキャスリーンはLe Tigreを脱退。
2013年に公開されたキャスリーンのドキュメンタリー映画で、このころからライム病を患っていたことが明かされた。

キャスリーンは2010年にThe Julie Ruinをバンドとして復活させ、メンバーにはBikini Killのメンバーだったキャシー・ウィルコックも名を連ねた。
ライム病でツアーをキャンセルしたこともあったが、2016年までにアルバムを2枚リリースしている。

The Julie Ruin 8曲(You Tube)

Le Tigreとしては他のミュージシャンとコラボレートするために単発的に集結したことはあったが、2022年8月のフェスに出演することが発表されている。

関連リンク


Bikini Kill (ビキニ・キル)のアルバム紹介

1.スタジオアルバム

Pussy Whipped

このアルバム以前にカセットテープのみでリリースされた自主制作のデモアルバムが存在するのだが、ここでは1993年にリリースされたこのアルバムを1stアルバムとする。

印象的な曲は、フェミニストとしての自分と一方でかわいい女の子でありたいと思う自分の存在を発見し、そんな自分を殺したいと思うものの理解して受け入れるAlien She、セックスしているとき男の馬鹿な妄想をかなえてあげようとしていた自分と決別し、もうこれ以上男の子のために女の子を演じることはしないと宣言するSugar、そしてライオットガールのアンセムRebel Girl。

Pussy Whippedの歌詞の和訳

このアルバムについては新谷洋子さんの素晴らしいレビューが存在するのでそちらを読んでいただきたい。
新谷洋子さんのビキニ・キル 『プッシー・ホイップド』

Star Bellied BoyはThe Sneetchesに影響を受けていると思われる。

大まかなストーリーを知りたい方はDr. Seuss シリーズ絵本<The Sneeches>へ。

Pussy Whippedの試聴リンク

Reject All American

1996年リリース。
これも1、2分台の曲が多いストレートな作品だがサウンドの質と演奏技術の向上が感じられる。
そのぶん怒り爆発や荒々しさは多少後退した感がある。

「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰? 私は気にしない」と始まるStatement Of Vindication、他人に利用されることへの怒りを示したJet Ski、カート・コバーンのことを歌ったという説が根強いR.I.P.とFor Only、「私たちは筆記体の文字をナイフに変えている」という歌詞が印象的なBloody Ice Cream、アメリカ的価値観を否定するReject All American、そしてライオットガールが勃発し1996年までいろいろな障害が立ち塞がったであろうがそれでも前進する意思を示したFinalがおススメの曲。

Reject All Americanの歌詞の和訳

Reject All Americanの試聴リンク

2.コンピレーションアルバム

The CD Version of the First Two Records

初期のEP2枚を1枚にまとめたもの。

女の子たちに実際に行動するように扇動するDouble Dare Ya、「肉を食べて黒人を憎み妻を殴る 全部同じこと」という歌詞が印象的なLiar、近親相姦について歌っていると思われるSuck My Left One、レイプについてのWhite Boy、尊敬する人の価値観に従うことへの警鐘を鳴らすThurston Hearts The Who、ストレートに怒りを表現したDon’t Need You、抑圧的な社会に対するResist Psychic Deathがおススメだ。

Bikini Kill / The CD Version Of The First Two Recordsの和訳

The CD Version of the First Two Recordsの試聴リンク

The Singles

解散後の1998年にリリースされた数枚のシングルをまとめたコンピレーションアルバム。
Rebel Girl以外の8曲はアルバム未収録。
2021年現在、歌詞対訳付き日本盤がリリースされている唯一のアルバムだ。

The Singlesの日本盤(2018年)

The Singlesの試聴リンク

Revolution Girl Style Now

元々は1991年にカセットテープのみで自主リリースした音源で、2015年にデジタル化された。
収録曲は他でも聞けるので、初期の音源などすべてを網羅したい熱心なファン向け。

Revolution Girl Style Nowの試聴リンク

3.Le Tigreのアルバム

Le Tigre

1999年のデビューアルバムにして最高傑作だと思う。

エレクトロを取り入れているものの、素人っぽさが満載で絶妙なローファイ感覚を生み出していてそれが素晴らしい。
Deceptaconでは「私のライムから政治色をとっぱらうことはできない」と宣言し、The The Emptyではエンターテインメントだけで中身のないスターのコンサートを批判、My My Metrocardではニューヨーク市長の政策を非難するなど、音楽の持つ楽しさとパンクの持つ攻撃性を見事に両立させている。

リリース後、セイディ・ベニングが脱退してJDサムスンが加入した。

Le Tigreの日本盤(2018年)

Le Tigreの試聴リンク

Feminist Sweepstakes

2001年リリースの2ndアルバム。

2作目ということでローファイ感は薄れて洗練されてきた印象を受ける。
エレクトロというものの風変わりな作風であり、Dyke March 2001、Well Well Well、TGIFなどを聞いているとエクスペリメンタルという言葉を連想する。

このアルバムは日本盤がリリースされていない。

Feminist Sweepstakesの試聴リンク

This Island

2004年の3rdアルバム。
今まで所属していたインディレーベルのMr. Lady Recordsが解散したため、メジャーからのリリースとなった。

メジャーだけあってサウンド面はしっかりしており、もっともポップにエレクトロしているアルバムとなった。
この変化が好きになれない人も多いのかもしれない。

当時のアメリカ大統領だったジョージ・W・ブッシュを批判していると思われるSeconds、世界平和を願うNew Kicksなど政治性は健在だ。

This Islandの日本盤(2005年)

This Islandの試聴リンク

4.The Julie Ruinのアルバム

Run Fast

2013年の1st。
イアン・マッケイのDischordからリリースされた。

Just My KindではLCD Soundsystemのジェームス・マーフィーにミックスを依頼するなど多少のエレクトロ色はあるものの、基本はポップでハードな王道ロック路線。

2014年のツアーではライム病が原因でツアーをキャンセルせざるを得ない事態になってしまったが、現在は回復してライム病に感染していない状態らしい。

Run Fastの日本盤(2013年)

Run Fastの試聴リンク

Hit Reset

2016年の2ndアルバム。
Sub Pop系列のHardly Artからリリースされた。

1stに続いて王道路線でメディアからは概ね好意的に受け入れられた。

I DecideのミュージックビデオではWaxahatcheeことケイティ・クラッチフィールドが出演している。

日本盤はリリースされていない。

Hit Resetの試聴リンク

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