Blankey Jet CityのBang!のレコードの音質

冬のセーターの波形 アナログ・レコード

ウチのサイト的には人気がないようですが、今日もブランキー・ジェット・シティのレコードの音質についてです。今回取り上げるのはおそらく多くの方が最高傑作にあげるであろうアルバムのBang!です。各ネットショップでは2025年6月現在、新品は売り切れているようです。中古でプレミア価格となる可能性がありますが、それに見合う音質なのでしょうか?

レコードを発売日に購入したものの長らく未開封のまま放置していましたが、下記のようにネタが満載だったとは思いもよらなかったです。さっさと聞けばよかったです。

Bang!のレコードは高音が鮮明

Xでつぶやきましたが、レコードプレーヤーのカートリッジを、素朴でパンチのない音がするM97xEから、スタンダードなDL-103に変更しました。

CDと聞き比べるなら標準だと言われているものの方が適していますしね。まあ、Bang!のCDの音とM97xEで再生したレコードの音を聞き比べたところ、素朴で不鮮明な音がするはずのM97xEで聞いたレコードの方が高音がシャープに聞こえたんです。

予想外の展開に耳を疑い、ではDL-103で聞き比べてみようということになりました。

結果は変わらず、レコードの方がハイハット、シンバル、スネアなどの高音が鮮明です。

amazonのレビューだと意見が割れているようですが、私はCDと比べてレコードは間違いなく高音が鮮明だと感じます。高音が目立つがゆえに低音が弱く感じます。それゆえにぶ厚い音だとは思えません。私はハイハット・マニアではないので、悪い意味でハイハットの音が目立っていると感じてしまいました。

ともあれ、レコードの音に何を求めるのかは人によって千差万別でしょうが、私のように程よく不鮮明で素朴な音を好む人間にとっては予想外の展開で驚いてしました。

高音が鮮明になった理由

問題はなぜこんな音になったのかということです。これはもう真実は関係者にしかわからないことですが、以下の二つに一つでしょう。マスターテープを忠実に再現したか、意図的に音質を変えたのか、どちらかしかありません。

「元々マスターテープの音はこんな感じだった」説

オフィシャルの宣伝文句を引用します。

このアナログ盤は、音に徹底したこだわりがあるとのことで、当時全作アナログ・レコーディングされたオリジナル・マスターテープより、ハイレゾリューションでデジタル・トランスファーし、ダイレクトにカッティングを実施。

マスタリング過程による余分なデジタル・リミッティングを一切行わない事により、オリジナルミックスのダイナミックレンジをそのままに再現したとのこと。CDとはまた違った音像を楽しめる。

この文章の読解は理屈っぽく考えると難しいです。

「マスターテープ」とは「ミキシングを終えた段階のもの」ということで話を進めます。

「アナログ・レコーディングされたオリジナル・マスターテープより、ハイレゾリューションでデジタル・トランスファー」というのはCD(44.1kHz/16bit)以上の音質、96kHz/24bitとか192kHz/24bitなどのいわゆるハイレゾ音源としてテープからハードディスクにデジタルデータとして録音したということです。

その後の文章はサーっと簡単に読んでしまえば、「その取り込んだデジタル音源の音質を変えずに、マスターテープに忠実な音を目指してレコードを制作しました。」との印象を受けます。私の勝手な思い込みかもしれませんが。

つまり、マスターテープの音に忠実に、リリースから約30年経過した現代の機材でレコードを制作したらこのような音になったと。それならば、好き嫌いは別にして拍手を送りたいです。

「今回のレコード制作にあたって意図的に音を変えた」説

先ほどの宣伝文句ですが、「カッティング」というのは、超簡単にいえばレコードの生産に必要な「型」をつくることです。その際に音質調整も可能だそうです。場合によってはカッティング=マスタリングと解釈されます。

リミッティングというのは音圧を上げる処理、ダイナミックレンジは「大きい音と小さい音の差」です。

つまりは宣伝文句をじっくり読むと、リミッターは使用しないけど他のエフェクトを使用しないとは断言していません。

音圧に関してはマスターテープを忠実に再現するけど、高音が強くするとか低音を弱くするとか音質を変えないとは宣伝文句に書かれていないわけです。

ですから、カッティングの段階で意図的に高音を鮮明にした可能性はあります。レコード会社の人間がCDとの違いがあからさまにわかる音にしろと指示したかもしれません。

真実はどうなんですかねえ? 関係者のみぞ知るっていったところでしょうか。

他のアルバムを全て聞き比べたわけではないですが、1stと3rdのレコードはCDと比べて高音の鮮明度が多少下がって、ぶ厚さが増すという、典型的なレコードらしい音に仕上がっているのが気になります。なぜBANG!だけ逆転現象が?

個人的にはマスターテープがそもそもこういう音だったと推測します。カッティングエンジニアの方も高音が強いというのは十分に承知しているはずなのに、あえてリリースしたわけですから。

どちらが好きかと問われれば、私はやはりCDを選択します。長年に渡って聞いてきたので慣れているのもありますし、前述したように鮮明過ぎる音はあまり好きではありません。この時代はまだ音圧競争が本格的に始まっていませんから、コンプレッサーかけまくりの平面的な音でもありませんし、よい音だと思います。レコードは残念ながらレコードらしくない音です。

皆さんはどちらが好みでしょうか?

BANG!のCDはマスタリングされていない

ただ、Bang!に関してはさらにややこしいネタがありまして、ベンジーが2013年に「Bang!はマスタリングしていない。」と発言していることです。これはむやみに信じては危険なWikipediaに記載されています。

記載内容を鵜呑みにするのもアレなんで、情報ソースのギターマガジン2013年2月号を入手しましたけど、確かにベンジーはそう発言しています。

1stで「すごく変な音になったな」と思っていたから、「きっとマスタリングの影響もあるんだ」と思い込んじゃっていて。

当時はマスタリング恐怖症になっとったんだわ。で、Bang!は一応マスタリングもやってもらったんだけど、なんかそんな音になったような気がして・・・やらなくていいって話になって。

だからせっかく良い音で録音できたのにマスタリングしていないんだわ(笑)。・・・それは失敗だったなと思ってる。

ベスト盤とかに入っている「Bang!」の曲はマスタリングしてあるからアルバムとは音が全然違うと思うよ。

ギターマガジン2013年2月号から引用

「マスタリング」作業にもいろいろあって、曲順の変更や曲間の調整もやっていないのですか?と聞きたいところではあります。まあ「クリスマスと黒いブーツ」とBANG!の曲間は短いなあと思っていましたが、本当に全くマスタリングをしていないのでしょうか?

オフィシャルXがマスターテープの写真を投稿したことがあります。

この写真を見るとリール2の「2人の旅」(おそらくJourney)の曲順がCDと違うので、少なくともマスタリングの段階で実施されるといわれている曲順変更はしています。音質調整をやらなかったということでしょうか?

The Sixに収録されている「冬のセーター」をBang!のCDと聞き比べましたが、キンキンすぎず、それでいて低音が少し強く感じます。もっとも良い音だとする方は多いのではないでしょうか?

The Six以外のベスト盤は持っていないので私には何ともいえません。

ともあれ、Bang!のCDの音に関しては2013年のベンジー本人は失敗だといえるサウンドだということです。ただ、当時のベンジーは考え方が青臭かったにせよ、その決断は正しいと思っていたのでしょう。

自分が好きなサウンドを選択する際にこういう経緯をどうとらえるかですよね。本人が後に失敗と言っているものが好きとは言いにくくなる方もいるかもしれません。

Bang!は本当にアナログレコーディングだったのか?

さらに話をややこしくするネタがありまして、Bang!って本当にアナログレコーディングされたのですかね? 宣伝文句には「全作アナログ・レコーディングされた」と記載されていますけど、Bang!のCDにはDigital Recordingとプリントされているのですが・・・。

まずは裏ジャケット。

BANG!の裏ジャケット

次にディスク。

BANG!のディスク

当時はおそらく最新技術でデジタルレコーディングされたということがステータスとみなされて人々の目を引き付ける要素だと判断されたのかもしれません。

まあ、今回のレコード化の宣伝文句の「全作アナログ・レコーディング」か、Bang!のCDにプリントされているDigital Recordingのどちらかが間違い、うがった見方をすれば「ウソ」ということになります。売るためには何でもアリという業界体質だと疑われても仕方ありませんね。

上で紹介したオフィシャルXのマスターテープの写真を見るかぎり、3Mのテープケースからしてマスターテープはアナログっぽいです。

当時のデジタルレコーディングといっても、主流はおそらくDAT(デジタルオーディオテープ、デジタルデータとして録音できるテープ)だったのでしょう。レコーディングはDATでもミックスを終えたマスターテープはアナログテープだったから「アナログ・レコーディングされたオリジナル・マスターテープ」と表記したのでしょうか?

これも真実は関係者しかわからないでしょうが、ウソは勘弁していただきたいです。嘘じゃなくても完全に説明不足です。

まあ実際のところ「アナログ」でも「デジタル」でも違いなんて我々リスナーには判別できない可能性が高いのでしょうけどね。

そういうわけで、Bang!は傑作であると同時に色々とネタが満載なアルバムであります。繰り返しになりますが、本人が失敗したと思っているとはいえ、私はやはりBang!のCDの音が一番好きです。

でもベスト盤の音は意外によい音するなあと今回はじめて思いました。THE SIX以降のベスト盤は音圧至上主義に毒されている可能性が高い年代ですがどうでしょうか。

皆様はどう思われるでしょうか?

追記(カッティングエンジニアの北村勝敏さんの発言)

ミュージックマガジン2024年10月号にカッティングを担当した北村勝敏さんのインタビューが掲載されていると知って入手しました。

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これによると、やはりマスターテープの音を忠実に再現できるようにカッティングしているとのことです。Metal Moonまでの4枚はほとんどオリジナル(マスターテープの音)のままだとか。

そうなりますとBANG!の音質の歴史は、「1992年のCDはマスタリングで音質調整しなかったので不鮮明な音になった。そして約30年後の2024年にマスターテープの音を再現しようとレコードを作ったら1992年のCDよりも高音がクリアな音になった。」といったところでしょうか。

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