コンニチハ、Jesus Lizardのデヴィッド・ヨウです。
今スティーヴ(アルビニ)の世界には中間色がある。以前は白か黒かだった。昔は使わなかった愛なんて言葉が普通の会話にも出てくる。いい人生だったのさ。トゲもとれた。
Jesus Lizard / デヴィッド・ヨウ Sonic Highways
上の発言は2014年のSonic Highwaysのものなので、最近の発言ではないです。
Steve Albiniが死去してから一か月ぐらいが経ちました。ShellacのニューアルバムTo All Trainsのリリース間近の突然の出来事でショックでした。このところずっとアルビニ関連のページの更新作業をしてきましたし。
死因は心臓発作だったとのことですが、でもまあ90年代なんてもう30年も前、80年代なんて40年も前ですからね。この時代を駆け抜けてきた方々も歳を取ったということでしょうか。
私のような40代半ばでも、あの人が心筋梗塞になったとか彼が脳梗塞になったとかそういう話が聞こえてきますが、大体そういう病気を発症するのは食生活が悪い人が多いですね。
どれだけ若い人がこれを見ているかわかりませんが、若いうちから野菜はしっかり食べることをおススメします。
様々なミュージシャンから追悼コメントを発信しましたが、印象的なのはサーストン・ムーアの長文でした。90年代半ばぐらいから連絡を取ることはほとんどなかったとのことですが、80年代アンダーグラウンドを共に駆け抜けた仲間として思うことはあったのではないでしょうか。
あとはTouch and Goのオーナーであるコーリー・ラスクですかね。こちらは友達としてバカやって遊んだ思い出話が印象的です。
あとはジャック・ホワイト。個人的にはアルビニが録音したら面白いことになりそうだと思っていたので、いつか実現しないかと期待していたのですが実現不可能となったので残念です。
ここ一か月ぐらいは亡くなったから話題になっているというのもありますが、私自身はアルビニのサウンドが大衆ウケするものだとは思っていないので不思議な気分です。
アルビニはスタジオで出している音をそのまま録音することに特徴があると思っていますが、逆にいえば現実離れした音にはならないということです。
つまり、コンプレッサーを強くかけて立体感のない平面的な音になったり、ドラムの音が飛んでくるようなキンキンサウンドになったり、現在でも主流派を占める音圧至上主義的な音にはならないということです。まあマスタリングの段階で変なことしなければの話ですが。
だから、その音に慣れた人が聞くとアルビニのサウンドは「音量が小さい」とか「音がこもっていて迫力がない」とかそういう感想を抱くと思います。
私自身、アルビニの録音物としてどれが一番好きかといわれると返答に困ってしまいます。結局サウンドだけでなく曲の質なども考慮に入れてしまうので、純粋にサウンドだけで選べといわれても難しい。
まあPJ HarveyのRid of Meですかね。ただ、ダイナミックレンジが広いですしヴォーカルがよく聞こえる音量にするとそこそこの爆音になってしまうのでおススメはしていません。ヴォーカルが埋もれているという批判にも頷いてしまう部分もありますが、私は好きです。
ShellacだったらExcellent Italian Greyhoundのサウンドがベストかなあ。
ようやくここからが本題ですが、毎回のようにアルビニに録音してもらってきたミュージシャンは意外に少ない印象です。それこそPJ Harveyだって一回限りで、Rid Of Me以降に再びアルビニと制作することはなかったです。
いろいろ理由はあるのでしょう。生々しいサウンドとは裏を返せば毎回同じようなサウンドとなることですからマンネリ化してしまうのを避けたり、短時間で仕上げてしまうという貧乏で予算のないインディバンド向けの手法ではなく時間をかけてじっくり仕上げたいと思う人もいるでしょう。プロデューサーとして助言をしてくれる人物と制作したいと思った人もいるでしょう。
しかしそのような中で、アルバム制作の際は毎回のようにアルビニのもとを訪れていた、本当にアルビニのサウンドを愛していたミュージシャンも存在します。リピートするということは、アルビニというブランド力に頼るでもなくカッコつけでアルビニに依頼するでもなく、本当にアルビニのサウンドに惚れ込んでいた証拠だといえます。アルビニの死を機にそういう方々に目を向けていただければと思います。
Jesus LizardやSilkwormといった80年代~90年代のタッチ・アンド・ゴー関連のバンドは殿堂入りということで紹介するまでもないのですが、それ以外だと真っ先に思いつくのはNeurosisです。
このバンドはオルタナムーヴメントの波に乗ったとはいいにくいですが、いつかサイトに掲載したいと思っています。
1999年のTimes of Graceから活動停止前の2016年のFires Within Firesまでの、6枚のアルバムをアルビニと共に制作してきました。
Neurosisのようなメタリックなバンドだとギターとドラムの高音を尖らせたキンキンサウンドになってしまってもおかしくないのですが、それとは真逆の低音のきいたブ厚いサウンドとなっています。
これを音量が小さいこもっている音とネガティブな意見を持ったあなたはアルビニのサウンドとは相性が悪いかもしれません。
Neurosis – Fire Is the End Lesson
デジタル機器の発達した2016年にこんなアナログ的なサウンドでリリースするなんて挑戦的で最高です。
バンドに一切指示を出さないっていうのが、アルビニのやり方なんだよ。彼は楽器や機材やマイクについて完壁に理解してるし、物を創るにはどうすればいいかも熟知してる。
たとえばスタジオにレコーディングしに行くだろ、で、バンドの中には、何年も一緒にやってきた経験から、ギターにはどんなサウンドを求めてるのか、ドラムにはどんなサウンドを求めてるのか、メンバー同士、暗黙の了解としてあるわけだよ。
アルビニはそれを瞬時に理解して、ついて来てくれるんだ。アルビニと一緒にやった時に、バンドには独自のサウンドってものがあるんだって気づいて、それがものすごい自信に繋がったわけ。
中略
待った、今のは俺には(アルビニが気難しい人間というのは)冗談にしか聞こえない(笑)、なんでそんな評判が立ってんのかわからんよ。彼ほど一緒に仕事しやすい人間は、この世に数えるほどしかいないんじゃないか?
仮にうまくいかないやつがいるとしたら、『お前こそ、何か問題あるんじゃないか?』って訊きたいくらいだ(笑)。まあ、アルビニはとにかく真っ直ぐな男だから、中にはそこが病に障るってやつもいるんだろうな。
彼は自分の掟に従ってる。自分を信じて生きてる男なんだよ。俺はそこを最大限に評価してるし、だからこそ、スティーヴ・アルビニは世界一優秀なエンジニアだって言いたい。
レコーディングの構造を熟知してるし、古き良き時代の優秀なエンジニアなんだよ。今時のエンジニアってのは、ミュージシャンになり損ねた連中ばっかりだから、その腹いせで、やたらミュージシャンに指図したがるんだ。
そのくせ機材の扱い方なんか、まるでわかっちゃいない。こっちの指示は聞かずに好き勝手に音をいじって、足りないところはエフェクトでごまかしちまう。アルビニはそれと正反対で、余計な口出しは一切してこない。
で、アルビニとやる時はレコーディング中に出してる音と、録音された音の間にあるのはマイクのみなんだ。わかるかい?極力手は加えずにサウンドを生のまんまテープに落とし込む作業なんだよ。
だから自分でも何やってるのかわかってない、プロデューサーの指示を仰ぐだけの連中がアルビニんとこに行くのはお門違いってことなのさ(笑)。
Neurosis / スティーヴ・ヴォン・ティル ロッキングオン2001年10月号
最後の部分が笑えてしまうのですが、2001年の時点でアルビニに相当な信頼を寄せていることがわかります。
次はNina Nastasia(ニーナ・ナスターシャ)。タッチ・アンド・ゴーに所属していたというのもありますが、2000年のデビューアルバムから一貫してアルビニとレコーディングし続けてきました。
正直言いますとタッチ・アンド・ゴーのページを製作するにあたり最近聞き始めたので私もよく知りませんが、アコギ弾き語り系のよい味を出しているシンガーソングライターです。
こちらも低音のしっかりとしたすばらしいサウンドです。
A Dog’s Life
日本のバンドだとMonoが真っ先に思い浮かびます。彼らもリピーターとしてアルビニのもとで何枚も録音しています。6月にリリースされるアルバムもアルビニと制作していたようです。もしかしてアルビニ最後の作品かもしれません。
個人的にはあまり好きなバンドではないし、過去のアルバムからはマスタリングに原因があるのかサウンドからアルビニの影をあまり感じられなかった記憶があるのですが、最新作はいい感じです。下のビデオの撮影場所はおそらくElectrical Audioでしょう。
MONO – Oath (Official Video) | EarthQuaker Devices
もちろん私はアルビニ本人に会ったことはないですけど、若いころの厭世的な雰囲気とマスコミの報道で人間性を誤解されてきたようですが、実際は人間関係の大事さを痛感している優しい人間だったのかなあと思います。デヴィッド・ヨウがいうように歳を取るにつれてトゲが取れていったようですし
ご冥福をお祈りします。
良き友となった人たちも数多くいる。そういった友情の方が音楽よりも自分にとっては貴重だったりするんだ。
シルクワームとは10枚レコーディングをしてて……バンドは解散してしまったけど、 メンバーとは全員、今でも友情は続いてる。それからニューヨークのシンガーのニーナ・ナスターシャと何枚かレコーディングをしててね。彼女は本当に素晴らしい作品を作ってるし、女性としても素晴らしい人で、一緒に仕事をするのは大好きだよ。
いくつかの日本のバンドとも一緒にレコーディングをしてきた。MONOはこのスタジオでこれまで何枚かレコーディングしたけど、彼らが戻ってくる度に、凄く嬉しいし光栄だ。
ゼニゲバのキシノ ・カズユキ(岸野一之) とも似たような関係を持ってて、ゼニゲバの日本ツアーに参加したこともある。そういう人との繋がりの方が、作品よりも自分にとっては重要なんだ。
スティーヴ・アルビニ / クロスビート2008年11月号
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