The High-Lowsのアルバムがリマスターされて再発されるようですね。
THE HIGH-LOWS、結成25周年を記念してリマスター盤一挙発売
数年前のブルーハーツ祭りと同様に本人たちは一切かかわっていないと思いますが、ハイロウズのレコードは基本的に入手困難で、私は3枚しか持っていないんで今回の再発は嬉しいです。
個人的にはこのリマスターには期待しております。
ハイロウズは「曲は良いけど音が悪いバンド」として真っ先に思いつくバンドの一つですから。
彼らのサウンドのどの部分が悪いかというと音圧を上げ過ぎているところです。
もう明らかに音圧上げ過ぎて音が割れているのがわかる部分もあります。
ハイロウズの活動時期は音圧競争が勃発してピークを迎える辺りと重なるので、今日はハイロウズの音圧を振り返ってみます。
音圧の話を出すのはえらい久しぶりなので少し解説します。
音圧とは聴覚上の音の大きさです。
我々が耳で聞いて大きい音だと思ったら音圧が高く、小さい音だと思ったら音圧が低いと思ってください。
ロックが好きな方なら昔のバンドの曲を聞いたら音が小さいと感じてボリュームを上げたことがあると思います。
それは音圧が低いからです。
1990年代後半からロックやポップは高い音圧を目指して作られてきました。
ラジオや街中で音楽が流れたときに他の曲よりも目立つからです。
音圧が高くないと売れない、リスナーも音圧を求めているという思いもあったようです。
こういうのを音圧競争とか音圧戦争、Loudness Warと呼びます。
ただ音圧を上げ過ぎると失われるものもあります。
音が割れたり、大きい音と小さい音の差(ダイナミックレンジ)がなくなって強弱のないサウンドになったり、奥行きのない平面的でペラペラなサウンドになってしまいます。
前置きが長くなりましたが、ハイロウズのセルフタイトルのデビューアルバムがリリースされたのは1995年。
海外では音圧戦争がはじまりつつあった頃です。
ただこのアルバムは音圧戦争とは無縁といった感じです。
下の波形は「スーパーソニックジェットボーイ」です。
私は素晴らしいサウンドだと思いますが、現代では音圧が低くて迫力がない音と批判されてしまうのでしょうか?
CDのマスタリングは内海幸雄、レコードはMasterdiskのGreg Calbiです。
レコードは違う方が手掛けたパターンです。
続いて1996年の2ndアルバム「タイガーモービル」からDeep Purpleそっくりの「相談天国」。
波形で見ると0db超えまくりの音圧競争に毒されたものと思ってしまうんですが、実際に聞いた感じはどうでしょうか。
確かに音圧は前作よりも上がっていますけど、音割れは感じませんし、聞いていてそこまで疲れる音ではないです。
参考までに波形の画像を載せていますが、音圧は実際のところ聞いてみないとわからないことが多いです。
波形だけで判断できません。
マスタリングは五十嵐輝明。
1998年の3rdアルバム「ロブスター」から「不死身のエレキマン」。
このアルバムはハイロウズ史上最悪の音です。
音圧を上げるには単純に音の大きさを上げるだけではありません。
高音を強調すると音が大きくなった感じがします。
ただ、聞いていてすごく疲れます。
私は「キンキン・サウンド」とか呼びます。
このアルバムはキンキンさせ過ぎですね。
音圧を上げるためコンプレッサーかけすぎて、小さい音を大きくした結果、奥行きのない不自然なサウンドに仕上がっています。
過去にも紹介した記憶がありますが、有名なマスタリングエンジニアのボブ・ラドウィックで、以降のアルバムのマスタリングはすべて彼が手掛けています。
音圧を上げるノウハウがなかった時代の失敗作ってところでしょうか。
次は1999年の4thアルバム「バームクーヘン」から「罪と罰」。
よくハイロウズの最高傑作と呼ばれ、私も最も好きなアルバムなんですが、音質という点では下から3番目です。
前作よりはマシなサウンドなんですが、キンキンサウンド、音が割れているのがわかる、立体感のない平面的なサウンドという典型的な失敗作です。
レコードも持っていますが、同じマスタリングを使いまわしているので良い音はしません。
レコーディングセッションはアナログテープでやったらしいですが、すべてが台無しです。
ちなみに1999年といいますと、ラウドネス・ウォーを語るうえで音圧が高すぎるアルバムとして頻繁に挙げられるレッチリのCalifornicationがリリースされた年でもあります。
続いて2000年リリースの5th「リラクシン」から「バカ (男の怒りをぶちまけろ)」
波形で見ると音圧は高そうですが、高音を強調したサウンドから脱却したのでかなり良くなりました。
各楽器の奥行きも感じられます。
ようやくノウハウが確立されてきたのでしょうか?
ここから7thまでは比較的まともなサウンドが続きます。
2001年の6th「ホテル・チキ・ポト」から「天国野郎ナンバーワン」。
前作と比べると奥行き感が減退してシャーシャーしているような気がします。
ただ全体的には前作を大きくは変わらないと思います。
2002年の7th「エンジェル・ビートル」から「アメリカ魂」。
これも「リラクシン」の延長上にあるといいます。
まあアタック感が強くて音が飛んでくるような感覚はあります。
最後に2004年の8thアルバム「ドゥ!! ザ・マスタング」から「荒野はるかに」。
ハイロウズ史上最も音圧が高いアルバムです。
音質は酷いです。
6年前の「ロブスター」と比べると進化は感じられますけど、やっぱり音圧上げ過ぎの失敗作は最悪ですね。
音の割れは目立ちますし、聞いていて疲れる音です。
どうしていきなりこのようなサウンドになったのでしょうか?
このアルバムからレコード会社が変わったのですが、その影響でしょうか?
世の中にiPod旋風が吹き荒れていましたから、それで音圧を重視したのでしょうか?
当事者じゃないとわからないですね。
まあそういうわけで、今回のハイロウズのリマスターでまともな音圧にリマスターされるのではないかと期待しております。
可能性は低そうですけどね。
最後にボブ・ラドウィグについてですが、このようなマスタリングになったのは彼だけが原因とは言えないと思います。
もう当事者しかわからないことですが、彼はクライアントの要求に応えただけかもしれません。
2000年代のインタビューで彼はダイナミックレンジのないマスタリングは好きではないということを言っていた記憶があります。
また、2013年にはDaft punkのRandom Access Memoriesというアルバムで音圧を抑えてダイナミックレンジを生かしたサウンドに仕上げて称賛されました。
ビジネス的な要素、レコード会社やバンドの意向などがかかわってきますから部外者が推測するのは難しいです。
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