そんな中で、後にオルタナ系バンドから馬鹿にされることになったLAメタルを中心としたHR/HMが大流行し始めた。
Motley Crue、Van Halen、Ratt、Poison、Night Ranger、Faster Pussycat、Bon Jovi、Cinderella、Dokkenなど挙げればキリがないが、こういったバンドがトップ10入りし、中にはBon Joviのようにアルバムを1500万枚以上売り上げるバンドもあった。
彼らの方向性はまさにMTV時代に相応しいものだった。
長髪をヘア・スプレーで逆立たせ、キンキラキンの衣装に派手なメイキャップ(後にヘア・メタルと皮肉を込めて呼ばれる)。
現実離れしたルックスをしているロック・スターは少年の心を見事に掴んだようである。
ライヴでは、派手な照明や火薬をもちいた華やかなステージ、宙をまって観客の真上にいったり、サーフボードに乗って空を飛んだり、半裸の女性を処刑するという芝居じみたことをしてみたりと、とにかく視覚的に印象に残るパフォーマンス。
プロモーション・ビデオにはストリッパー的な女性が登場し、美女をはべらかせるという浮世離れしたロック・スターを演出して見せた(後に女性軽視の男根主義的発想と批判される)。
肝心の音楽といえば新しい表現とは言えず、ポップなメロディに「パーティーだ!」「女だ!」「ドラッグだ!」といったような歌詞を載せた保守的な商業ハード・ロックが多かった。
エンターテインメントとしては優れていたが、毒やスリルを感じられる音楽ではなかったのだ。
「セックス・ドラッグ・ロックンロール」は不良っぽさを演出するツールに成り果ててしまった。ドラッグですらロック・ビジネスに利用されていた感がある。