ジェネレーションX(X世代)の代弁者

このように80年代は光と影が存在していたが、音楽業界といえば、残念ながら好景気を反映したバブリーなものばかりで、世間の闇を表現した音楽はメインストリームでは皆無だった。

しかし、92年に陰鬱なサウンドで内向的な歌詞を持つNirvanaが大ブレイクすると、80年代のバブリーな音楽に飽き飽きした若者が飛びついたと考えられた。

先に述べた社会情勢とジェネレーションXという小説、陰鬱なサウンドでHello How Low?(どれくらい酷い?)と歌うSmells Like Teen Spiritの大ヒット。
これらから導き出されたのは、「Nirvanaの音楽はX世代の不安や焦燥、憤りを表現したもの」だという結論であった。

実際に多くの若者の共感を得て、カート・コバーンは世代の代弁者として祭り上げられるようになった。

一方のPearl Jamも91年リリースのTenが大ヒットしたことにより、同じく世代の代弁者として祭り上げられたのだが、Nirvanaと比べると歌詞が理解しやすい。
Smells Like Teen Spiritsと並んでX世代のアンセム(代表する歌)となったAliveを紹介しよう。

彼女は言った
お前が父さんだと思っていた人は
父さんじゃなくて…
お前が13歳 一人で家で座っていたとき
本当の父さんは死んでいった
お前に会わせられなくて御免よ

彼女はゆっくり歩き
まもなく若い男に出会う
あんたのものよと彼女は言った
俺はこの日のことを何も思い出せない
その情景以外は
今じゃそれも見えない
(Pearl Jam / Aliveの歌詞)

パール・ジャムのアライヴアライヴこの曲から感じられるのは離婚、それが原因で生じる孤独。
すでに説明したように、ジェネレーションXは子供の頃に大離婚時代の煽りを受けた世代だ。

最後に補足しておくが、カート・コバーンもエディ・ヴェーダーも、他の世代の代弁者扱いされた人々も個人的に思ったことを音楽にしただけだ。
しかし、予想外にも多くの人々に影響を与え、世代の代弁者として期待されたことは、後に彼等を苦しめることになった。

(R.E.M.が世代の代弁者とされたことについて)馬鹿げているよ。だってそうだろ。
一人の米国に暮らす白人が、大勢の人間のスポークスマンになれるなんて。
ただのロック・バンドのシンガーだよ。おかしいよ。
ジェネレーションXなんて、メディアが作り上げた概念だからね。
本当にジョークみたいなものさ。(R.E.M. / マイケル・スタイプ クロスビート1995年3月号から引用)

人気がある程度のレヴェルに達すると、みんな僕のパーソナル・ライフについて知りたがるようになる。
何で彼はこんなこと言ったのか、なぜ彼はこんなことをしたのか、って全てを僕の物語にしようとしたんだ。
僕はそんなの嫌だったし、とにかくあの雰囲気がいたたまれなかった。

それでも僕は音楽を作り続けたんだ。
その代わりどうなったかというと、「オーケー、僕は僕の言いたいことを言うよ。でも本心はこの絵の後ろ側に隠すから」ってなるわけだ。
もちろん、(歌詞に)本心は描くけどそれを前面には描かない。
でもそうやったおかげで、今ようやくあの気の狂った状況を沈めることができた。
(Pearl Jam / エディ・ヴェダー rockin’on2005年5月号から引用)


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