「カラーフィルムを忘れたのね」-現代もロックは世界を変えることができるか

お久しぶりです。
最近は少し忙しかったです。
勤務先の会社がビルから追い出されることになって移転作業に追われていました。。
それが終わって一息つけると思いきや、今度は自宅の賃貸住宅から工事をするからと立ち退きを要請されてしまいました。
再び引っ越しの準備。

そういうわけでButthole Surfersのページの更新作業はあまり進んでいません。
でもそんな中でも久しぶりになんか書いてみようと思いました。

もう半年以上も前のことですが、去年の12月にドイツのメルケル首相が退任式でパンクロックを選曲したとのニュースが流れましたが覚えていますか?

涙と赤いバラ メルケル氏 東独出身パンク歌手の曲をリクエスト 首相退任式(2021年12月3日)



当時はそのニーナ・ハーゲンなんて歌手のことを知らなかったし、今にして思えば私が目にしたニュースは「パンクロックを選曲したこと」ばかり注目していて、その曲は一体どういう曲なのかをロクに解説していないものばかりだったので、あまり興味が湧きませんでした。

今年の4月にNHKで放送された映像の世紀バタフライエフェクト「ベルリンの壁崩壊 宰相メルケルの誕生」を見て全てを理解できました。

メルケルがリクエストしたニーナ・ハーゲンの1974年のヒット曲「カラーフィルムを忘れたのね」は、ミヒャエルという恋人とヒデンゼー島にバカンスに行ったものの、その恋人がカラーフィルムを忘れてしまったため写真がモノクロになってしまったことを嘆くという歌詞ですが、実際のところは社会主義で自由がなく市民は秘密警察(シュタージ)から監視され続けるという東ドイツ社会のことを色のないモノクロの世界になぞらえて批判した曲です。

[和訳] Nina Hagen / Du hast den Farbfilm vergessen メルケル首相退任式

直接的な東ドイツ社会批判ではなかったので検閲は免れたようですが、国民はみんなこの曲の真意を知っていたし、国民の2人に1人は歌うことができたほど浸透していたそうです。
東ドイツで抑圧された人生を送っていたメルケルもその一人で、レコードが擦り切れるほどこの曲を聴いていたとのこと。
メルケルが「この曲は私の青春時代のハイライト。いろんなことが私の体験と重なっている。」と語ったのはそういうことだったのかと。
退任式でこの曲を聴きながら目に涙を浮かべていたのにも納得です。

その15年後の「ベルリンの壁崩壊」で人生が劇的に変わり、2005年には「宰相メルケルの誕生」となっていくわけですが、この番組はNHKオンデマンドで見るか、再放送を待つしか見る方法がないようです。
素晴らしい番組だっただけにぜひ見ていただきたいですが。

それにしても、このように(厳密にいえば「カラーフィルムを忘れたのね」はニーナが亡命してパンクロッカー化する前の曲なのでこれをパンクとするかは賛否あるでしょう)昔は「ロックが世界を変えた瞬間」なんてあったんですが、現代にも存在しうるでしょうか?
ロックが持っていた反逆性はラップに取って代わられたと言われて久しいですが、現代のラップも世界を変えることができるでしょうか?

現代は社会からの抑圧を感じる瞬間こそあれ昔よりもかなり自由となりましたし、なにより音楽の持つ影響力が弱まっている気がします。
いつの日か、長年に渡って反プーチンを打ち出してきたPussy Riotの音楽に感化された人がロシアの大統領に就任する日が来ることを願っております。

コメント

  1. えもん より:

    私と夫はこのNHKの番組が好きで(特に山田孝之さんナレーション) 、このメルケル氏の回も偶然見たのですが、良かったです。
    若い頃のメルケル氏(ショートカット似合う)に思わず「可愛いね」と連呼したり、政治家になる前のキャリアを知ることができたり、
    ニナとドイツ版朝生みたいな討論番組に出演してニナにキレられたり( さすがパンクだ )、
    東西ドイツ時代を知る人が当時の話をもっと発信してもいいのではと思います。
    日本で被爆者がごく少数になっていくのと同様に、歴史の生き証人の語る体験談は貴重です。
    ロックが時代を変え得る瞬間、今そんなことがあるのか?と考えるとどうしてもハテナ?とすぐには思いつかない。
    デビッド・ボウイ以降、なんとも現れていない気がします。
    自分が生きている間に、一度でもそういう瞬間にめぐりあえたらなと思います。
    音楽をやる人たちは、現代の便利過ぎる状況( 技術的にも物質的にも )に甘んじずにもっと原始的で泥臭い表現をしてみてもいいと思います。
    30年前くらいの夏フェスみたいなね。
    初めてなのに長文失礼いたしました。

  2. Hyottoko より:

    現在の西側諸国では昔ほど抑圧された社会ではないですから、ロックをはじめとする反逆の音楽の必要性が弱くなったと思います。
    ですから強権主義的国家の音楽に期待したいです。ロシアではやはりPussy Riotでしょうか。
    すぐに時代を変えることができなくても「バタフライエフェクト」という言葉の意味のように、音楽が小さなきっかけになってくれればと思います。

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